さくらへようこそ
パタタ…と、テーブルのうえに涙がこぼれ落ちた。

その言葉を聞いた時、生きていてよかったと美桜は思った。

桜野に会えてよかった。

桜野が母親でよかった。

生まれたばかりの自分をすぐに捨てた情のない親じゃなくて、桜野でよかった。

美桜は椅子から腰をあげると、2階へと足を向かわせた。

仏壇へ行くと、美桜はそっと両手をあわせた。

「――ママ、ありがとう…」

桜野の遺影に向かって、美桜は呟いた。

遺影の中の桜野は微笑んでいるだけで何も言わなかったけど、充分だった。
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