いつもので。
言われた瞬間俯きたかったけど、顎に添えられた手がそれを許してくれない。
「ちゃんと好きだから、からかわれてるなんて思うな」
真剣な表情と声にどきっとした。
ほんのちょっと前まで悪そうな笑顔だったくせに、急に変えるなんてずるい。
「でも…どこが好きなんですか?」
ずるいけど、聞かずにはいられない。
どうにも気になる。
顔をあわせたのは確かに今日が初めてというわけではない。
でも会話という会話をしたのは今日が初めてで好きという感情に至るまでには足りないような…
「直感。優河とその嫁からもおまえのこと聞いてたし」
しれっと言ってのけた彼は顎に添えた手で頬をすっと撫でた。
その仕草にうっとりしかけて、ふと柳さんと梨麻さんは知ってたんだと気づいた。
「ずるいです!わたしは、なにも知らないのに…。それに直感って…」
「じゃあ、なにが知りたい」
瞳を細めた眼差しは優しくて、ずっと向けられていたいと思ってしまう。
「…とりあえず名前と、年が知りたいです」
「塚田 篤。年は優河とタメだからちょうど一回り上だな。試しに呼んでみろ」
「えっなんでそうなるんですか」
「呼ばせないと呼ばなさそうだから」
…あたってる。
どうしてわたしの思考を読んじゃうの。
先回りされて追い詰められたら、逃げられなくなるのに
「ほら、照れてないでさっさと呼べ。先に言っとくけど名前でな」
相変わらず手は添えられたまま逃れられない。
「…篤さん」
「別に呼び捨てでもよかったけど、悪くない」
震えた声で名前を言ったら、気のせいかもしれないけど少しだけ嬉しそうに笑ってくれて、それを見たらわたしも嬉しくなった。
笑ったわたしに気づいた篤さんはきれいな顔が近づけてきて、どうすることもできずおでこに触れた篤さんの唇…
「なっ!」
「顔真っ赤だな」
「っ自覚してます。じゃなくって、なんでおでこ…」