いつもので。
翌日、仕事に行くと、最近はいなかった梨麻さんが朝からお店にいた。
「おはようございます、店長」
産休中は基本的にお店には来なくなっていたから、てっきり店長しかいないと思って裏口から入ると、店長ではなく梨麻さんが仁王立ちしてた。
「すずちゃん、おはよう」
にっこりときれいな顔を向けられて朝からどきどきしつつ、なぜ梨麻さんがここにいるんだろうという疑問も浮かび上がる。
「おはようございます、梨麻さん」
がしっと肩を掴まれて、じっと見つめられて、「…なにかあったらすぐ言ってね」と凄まれた。
「…は」
「梨麻、すずちゃん怯えてるよ」
梨麻さんの後ろから見かねた店長が苦笑いを浮かべながら梨麻さんを引き剥がしてくれた。
「すずちゃんになにかあったら優河くんのせいだからね」
この夫婦のお互いの呼び方はよくわからない。
梨麻さんの方が年上なのに店長を“くん”付けで呼んで、店長は梨麻さんを呼び捨てで呼ぶ。
前に聞いたことがあるけど、「成り行き」としか教えてもらえなかった。
「まあ、確かにドSで俺様っていうのは否定しないけど悪いやつじゃないよ」
店長の台詞で、篤さんとのことを言っているのだとわかった。
…というかその件に関して否定はしてくれないんだ…。
一応、昨日部屋まで篤さんの車で送ってもらったあと、引っ張られるままに帰っちゃったことを電話で謝ってはおいたけどちゃんと謝っておかないと。
「あの、昨日のこと…」
「ああ、気にしないでいいよ。あいつがすずちゃん引っ張って行ったんだから、すずちゃんは悪くないよ」
「そうよ。むしろあの男のせいにしちゃっていいのよ」
にっこりと笑った夫婦に「はあ…」としか言えない。
だって実際有無言わさずに引っ張ったのは篤さんだもん。