いつもので。


午前中だけと言っていたけど、結局ランチがいつもよりも混んでしまって、梨麻さんが帰ったのは3時をすぎた頃になってた。

店長も付き添って行ってるから、お店にはひとりきり

お昼時をすぎたからお客さんは誰もいなくて、キッチンスペースの奥で少し遅めのお昼ごはんを食べていると、ドアが開く音がした。

アイスカフェオレを一口飲んで、「いらっしゃいませ」と声を出しつつカウンターへ向かう。


「いつもので」


それだけ言って奥の指定席へ向かう彼

昨日までと同じ態度がなんだか物足りないと思ってしまうのは、お客様ではない彼を知ってしまったからなんだと思う。


「…お待たせいたしました」


店長がいないときはわたしがキッチンをやることもあったから、彼のいつものを作って持っていく。


「…ひとりか?」


コトンと小さく音を立てながらテーブルにお皿を置くと、ふいに彼の瞳がわたしを捉えた。


「あ、はい。店長は梨麻さんが来ていたから、自宅の方に送りに行ってます」


最後に伝票を置いて下がろうとすると、手を掴まれた。


「誰もいないんだから、少しくらいいいだろ?」


指先で手の甲を撫でられて、昨日までとはもう違うのだと自覚した。


「隣来るか?」


魅力的な誘惑にのせられかけて、首を左右に振った。


「だ、だめです。お客様来ちゃったらどうするんですかっ」


傍に行きたいとは思うけど、ここは職場でカフェで、今このもの瞬間にお客様が来てもおかしくない状態で


「ここ死角だから、大丈夫だろ」


しれっと言ってのけてくるもんだから、頷きそうになったけど、首を横に振って拒んだ。


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