強引上司のターゲット

「寺谷さん、ちょっといいかな。」


向かい合っているあたしと新庄さんの真横で立ち止まったのは、あたしが極力関わりたくない人、課長だった。
何であたしに話しかけるのよ〜と焦りながらも、新庄さんの誘いを上手く断る自信がなかったあたしは、このタイミングで来てくれたことに感謝する。


「は、はいっ、何でしょうか？」


「うん、ちょっと社内を案内してもらえる？」


案内、ですか？
あたしが？

何であたしが？と思いながら新庄さんに目だけで確認すると「行ってらっしゃい」と、あたしでも課長でもない何処かを見て言った。
完全に怒っちゃってるわ。


「行っ…、てきます」


この場を離れられてラッキーなような、この後が怖いような。
でも新庄さんのスケジュールではこの後外回りのはずだから、とりあえずは会わなくて済むかもしれない。


あたしは早速「参りましょう」と課長を連れてフロアを後にした。

でも、なんだってあたしを指名してくるのよ。
周りの目を気にしながらエレベーターホールに向かい、下から順に案内しようとボタンを押した。

すると、


「ふ〜ん。」


振り返れば、数歩後ろで片足に重心を置いた課長が腕を組みながら、あたしを舐め回すように見ている。