不機嫌主任の溺愛宣言

――やはりアクセサリーが無難だろうか。ならば拘るべきはデザインか?ブランドか?好きな石はなんだ?付き合って最初の誕生日でダイヤは重すぎるか?

ショーケースを厳しく睨みながら思考を巡らせる忠臣。もはや日課になりつつある悩みの時間だったが、今日は途中でケータイの着信音がそれを遮らせた。

仕事用のガラケーに来た着信は右近からだった。ジュエリーショップから離れ通話ボタンを押せば、どこか困ったような声で右近が話し出す。

『昼休み中すみません。あの、それが……本部長が急に来られまして……』

「なに?聞いてないぞ」

思わぬ報告に、忠臣の声が厳しさを帯びた。

『急遽、だったみたいです。今、地下をお独りで見られてるみたいで……10分後に小会議室に来られるそうです』

「……分かった。すぐに戻る」

福見屋デパート地下食品部門本部長、上原梓の突然の来訪。それはどう考えても忠臣にとってあまり良い報せとは思えなかった。さっきまで頭を埋めていた甘い悩みは、一瞬にして肩肘の張る仕事の緊張感に覆い塗られた。



「失礼します」

忠臣が小会議室へ入ると、梓はすでに到着し椅子に座っていた。ベルベットカラーのパンツスーツに身を包み、肉感的な足を組んでパソコンの地下食品街の売り上げに目を通している。指にはメンソールの香りがする細い煙草を挟みながら。

「出迎えが出来ず申し訳ありませんでした。お越しになられると連絡を受けてなかったもので」

忠臣が一礼すると、梓は煙を吐いてから

「いいのよ、ひとりで地下が見たかったからね」

パソコンのモニターから目を離さないまま言って、忠臣に椅子に座るよう促した。
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