不機嫌主任の溺愛宣言
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「くそ…!人形みたいな細い腕してるくせに馬鹿力しやがってぇ…!!」
「勝手に見た目で判断しないでよね…!ちょっとは護身の心得ぐらいあるんだからっ…!」
一方の一華。スマートフォンを加賀に打ち払われた後、彼女は襲い来る加賀をなんとか力尽くで押し留めていた。日頃からスポーツジムで体力をつけ、独学で護身術を勉強した成果が如何なく発揮されていたのだ。
地面に押し倒され上から加賀が覆いかぶさって来ようと云う状況を、一華は鍛えた腕力と脚力を使って全力で抵抗している。
けれど、やはり男と女。長時間の力比べになれば分が悪いのは当然一華の方だ。それも、加賀は巨躯に体重を掛けて圧し掛かって来ようとしているのだから、一華の細腕はもう限界に来ている。
「観念しろよぉ。どうせお前なんかあっちこっちで男とやってるんだろぉ?可愛いだけが取り得だもんな、女の武器使って散々いい思いしてるクセによぉ」
「ふ、ふざけないで…っ、誰がそんな事っ…!」
口付けて来ようとする加賀の顔を震える腕で押しやりながら、一華は必死に反発の言葉を紡ぐ。けれど。
「へっ、どうせ前園の野朗とも寝たんだろぉ?あの野朗、真面目ぶってるクセしてお前に興味深々だったもんな。あの時助けたのだって、どうせ下心なんだよ。お前みたいな女に近付く男なんて、みんな目的は一緒なんだよ!」
加賀の吐き出した下劣な言葉に、一華の頭が怒りで真っ白になった。
パンッ、と乾いた音が路地裏に響く。
押し倒された体勢から、それでも一華は目一杯の力を籠めて加賀の頬を打ち払った。
「あの人をあんたなんかと一緒にしないで…!!」
強く睨みあげて言った一華に、加賀はしばし呆然としていたけれど、やがて怒りにワナワナと震えだした。
「てめえ!調子に乗るなよぉ!!」
「……っ!!」
憤慨した加賀が一華の顔めがけて平手を打とうと大きく腕を振り上げる。それを見た一華はかたく目を閉じ、恐怖で身をこわばらせた。
しかし。
「……貴様……何をしている」
ゼエゼエと乱れた息混じりに低く放たれた声に驚いて一華が眼を開けると、そこには。
「いで!いででで!」
「今すぐ一華から離れろ!」
振り上げた加賀の手を後ろから掴み上げた前園忠臣が、過去最高に不機嫌な表情をしながら立っていた。