不機嫌主任の溺愛宣言
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自分に向かって助けを求めた電話は、直後に何かにぶつかる音がしてすぐに途切れた。尋常じゃないその様子に、忠臣の背筋が冷たくなっていく。
慌ててリダイヤルをしても当然のように電話は出ない。これは一刻の猶予も無いと悟った忠臣は、右近の「主任?どうしたんですか!?」の声を背に受けながら事務所を飛び出した。
――何が起きているんだ!?助けに向かうと言ったって…クソッ!一華がどこにいるかさえ分からないじゃないか!
従業員用の階段を駆け下りながら、忠臣は必死に頭を働かせる。
……さっきの通話の向こう。切れる直前に一瞬だったが、何か音楽が聞こえた。あれは……あの独特のメロディは聞き覚えがあるぞ。思い出せ、思い出すんだ。
眉間に皺を寄せ、彼は懸命に記憶を辿った。この時間なら一華は福見屋から駅へ向かって歩いていた可能性が高い。となると、あの音楽はその間に存在するものだ。
そこまで考えて、忠臣の頭に答えが浮かんだ。
……思い出した!あれは繁華街の裏通りに近いゲームセンターの店頭でいつも流れている曲だ!という事は、一華はその近くに……どこか路地裏に連れ込まれている可能性がある…!
思い当たる裏道や路地裏を頭の中に描きながら、彼は1階まで猛スピードで駆け下りると、そのまま従業員用の出入り口から駅方面へ向かって息つく間もなく走り出した。
――必ず助ける、だからどうか無事でいてくれ……一華!
忠臣は、いつも手入れを欠かさない愛用のビジネスシューズに傷が付くのも厭わず、地面を力強く蹴って力の限り走り続けた。