冬夏恋語り


亮君の第一声は 「おっ、かわいい」 だった。

小柄な私には、マキシ丈のワンピースを着こなすのは難しいが、ショップの店員さんに勧められて冒険した一枚で、彼が目を止めてくれたことが何より嬉しかった。

照れもせず褒め言葉を口にできるのは、彼に備わった一種の才能かもしれない。

浴衣を褒められ、ペディキュアがいいと言われ、歌声も好きだと言ってくれた。

彼の言葉に私への好意が感じられても、感じたままを受け取ってもいいのか、恋愛経験値の低い私にはわからないが、褒められて気分が上昇するのは確かだ。

迷いもなく彼の車のドアを開けて助手席に座る私は、やっぱり遼くんと付き合っていることになるのだろうか。



「深雪さん、今夜は遅くなるんでしょう?」


「そうでもないかな、付き合っても二次会まで。みんな忙しくて」



今夜集まる友人の半分は結婚しているが子どもがまだ小さくて、実家に預けての参加なので、遅くまでいられないそうだ。

独身の友人たちも、それぞれ用事があるらしい。



「じゃぁ、二次会が終わるころ電話してください。俺、迎えに行きます」


「いいの? 待たせちゃうけど」


「いいですよ。終わるの何時頃ですか?」


「11時頃かな」


「了解。前みたいに、ほかの男についていかないように」


「そんなことしません」



そこから動かないで待っててくださいね、と、子どもに言い聞かせるように念を押してくる。

わかってます、と口を尖らせながら運転席の亮君を盗み見ると、口元を少し緩め満足そうな顔
をしていた。

年下の彼が、落ち着いた大人の男性に見えるのはこんな時だ。

私をドキドキさせるその顔が、実はちょっと好きだったりするのだが、そうだと彼に言ったことはない。



『リハビリに付き合ってください』


こんな言葉で食事に誘われたのは、里緒菜さんから別れを伝えられたと聞いた日だった。

真夜中のコンビニ前の口論のあと、逃げるようにタクシーで去った彼女と、それから会って話しをしたのかと思っていたが、交際にピリオドをうったのはメールだったという。

『亮君、バイバイ』 とだけ書かれたメールが送られてきて、しばらくして返信したがメールは届かなかった。

「メールで終わりにされました」 と、無理に作った笑顔で言ったあとの言葉だった。

心を癒す手伝いをしてほしいと頼まれたのか、交際してくださいという告白の変化球だったのか、いまだに判断できないでいるが、リハビリと称した付き合いは毎週続いている。

前から自覚はあったんですけど、とドキっとする言葉とともにくれたキスは、あの一度きり。

二度目はあるのだろうかと、彼に会うたびに考えている私も、亮君を特別な存在だと思っているのだと自覚しているけれど、彼に伝えるすべを見つけられずにいる。


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