冬夏恋語り


季節を先取りしたディスプレイは、店内いたるところで 『秋』 を演出している。

和食好きな友人が選んだ店は 『和』 のテイストで統一され、栗や紅葉など小物も秋色に染められ夏の名残りはどこにもなかった。

メニューも秋の味覚満載で、まだ夏の暑さの残る昼間の熱を忘れさせるものだったが、デザートが 『マロンタルトのアイスクリーム添え』 だったことに苦笑した。

アイスクリームは秋にも寄り添えるらしい、これが風鈴の絵皿なら季節はずれになるだろうに……

ちょっとだけ八つ当たりのつもりで、罪のないバニラアイスを容赦なく真っ二つに割って口に放り込み、アイスクリームとセットで思い出す西垣さんの顔を、口に入れたアイスとともに溶かして消した。



今日の主役のマコちゃんから結婚までの報告があり、彼女の嬉しそうな顔が眩しかった。

次は深雪だね、と言われたが黙って微笑んだだけ。

友人たちには、まだ彼と別れたことは言っていない。

今夜言うつもりではいるが、決して楽しい話ではないので、会の終わりにでも打ち明けようと思っていた。


アラサーって33歳までだって……と言い出したヨーコちゃんの発言から話題が変わった。

同級生の結婚祝いの会は、ミニ同窓会でもある。

短大を卒業するとき、仲の良かった7人の誰かの結婚が決まったら、どんなことがあっても、どこにいても、みんなで集まろうと決め、それを実行してきた。

といっても、結婚したのはまだ2人、マコちゃんが3人目でほかの3人に結婚の予定はなく、私は結婚予定の彼がいることになっている。



「34歳はアラサーじゃないの?、アラフォーでもないよね」


「四捨五入でアラサーだって」


「ってことは、来年は四捨五入でアラフォー? えーっ、やだぁ」



独身組は複雑な顔になったが、マコちゃんと既婚の2人は特に感慨はないようで 「そんなの気にしなくていいじゃない」 と余裕の発言だ。



「気にするわよ。

いくつですかって聞かれて、アラサーですって言うのと、アラフォーじゃ全然違うもん」


「だよね」



そういえば、アラサー限定の合コンがあったんだけど……と、また話題が変わる。

女子会のおしゃべりは、こうして延々と話が続いていく。

そのときね、お持ち帰りされちゃった子がいたの……と誰かの話が始まり、私は思い出したくない場面を思い出してうつむいた。

お持ち帰りって珍しくもないよ、と友人の話は続いていたが、私にとっては苦い経験で、亮君が来てくれなかったらどうなっていたのかと、我が身を振り返っていた。

彼の颯爽とした顔が浮かび、4つも下だからまだ若いわね……と、わかりきったことを確認して変に落ち込んだ。


私の浮かない顔に気がついたヨーコちゃんに、どうしたの? と聞かれ、なんでもないよと言ったのに、マリッジブルーかなと言われてごまかしようがなく、西垣さんとの別れを話すはめになった。

幹事役のヨーコちゃんから今日の知らせをもらったときのこと、互いの近況報告になり、結婚が決まるかも……と話をしていた。

ちょうど結婚話が具体化した頃で、急な展開に戸惑いながらも、その時は西垣さんと将来を歩くものだと思っていた。

あれからそれほどたっていないのに、結婚をやめるなんていったい何があったのかと、友人たちは私を心配しながらも別れへ至った経緯に興味津々で、次々と繰り出される問いかけを拒むことができず、すべて白状させられた。

お祝いの会に別れ話を持ち出すことになり、マコちゃんに 「ごめんね、こんな話して」 

と謝ると、「深雪が辛い時にお祝いさせちゃって、ごめん」 と逆に謝られた。

そんなことないよ……といったのだが、偽りでなく本当にそう思っているのだ。


西垣さんとの恋愛は私の中で完結して、過去のものになっていた。

別れの痛みも残っていなければ、西垣さんとの思い出に浸ることもない、友人たちへ気を使って無理に元気な顔を作ってもいない。

長い交際のあとの別れだったが、薄情なほど気持ちの整理がついていた。



「そうだったんだ……じゃぁ、誘っちゃおうかな」


「なぁに?」


「深雪、婚約したんだと思ってたから誘わなかったの。

兄貴の友達と遊びに行くんだけど、いかない?」


「いつ?」


「今夜」



このあとのヨーコちゃんたちの用というのは、こういうことだったのかと納得していると、「ねぇ、行こうよ」 とほかの2人からも熱心に誘われた。

失恋した私を元気づけようとしてくれる気持ちは嬉しいが、イエスと返事をするわけにはいかない。


『前みたいに、ほかの男についていかないように。そこから動かないで待っててくださいね』


亮君との約束はしっかり頭に刻み込まれている。

ごめん、今夜はダメなの……と、理由を告げずに断ったが、迎えに来た亮君を彼女たちが見たら、「彼は誰? これってどういうことよ、話しなさい!」 ときっと大騒ぎだろう。

時間をずらして来てもらおう……

とりあえず、今夜は友人たちと亮君の遭遇を避けたいものだと思うのに、どうも私は騒動を引き寄せる体質らしい。

のちのち友人たちと集まるたびに語られる、格好の話題を提供する事態を引き起こすことになるのだった。


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