「異世界ファンタジーで15+1のお題」四




「皆様、本日はソリヤ王国の建国の記念舞踏会へお集まり下さり、誠にありがとうございます。」

割れんばかりの拍手を受け、声高らかに宣言した大臣は、煌びやかな衣裳を身にまとい、にこやかな笑みを浮かべてはいたが、それは実際の心を隠す仮面だった。
ラーシェルの行方はようとして知れず、手掛かり一つみつからなかった。
おそらくは、以前、逃げ出した兵士達の手によるものだろうとの推測はなされたが、何の証拠もみつからなかったことに大臣の怒りは募り、その腹いせに兵士を強かに傷めつけても怒りは少しもおさまらなかった。
しかし、そんなことはおくびにも出さず、大臣はまるでソリヤ国王のように振る舞った。

軽快な舞曲が演奏され、着飾った招待客達はそれに合わせてステップを刻んで舞い踊る。
むせ返るような花の香りと香水のにおいに包まれた大広間には、さらに酒と葉巻と料理のにおいが入り混じり、シスター・シャーリーは広間の片隅で口許を押さえて咳き込んだ。



(思ったよりもすごい人だわ。
こんな場所で、大きな魔法を使ったら一体どういうことになるのかしら…)

シスター・シャーリーはこれから起こることを考え、不安に顔を曇らせた。
大勢の客の中で、ターニャが今どのあたりにいるのかもシスター・シャーリーにはわからなかった。

曲が進んでいくごとに、場内の熱気も比例して上がっていく。
客達の赤くなった頬は、ダンスのせいか、酒のせいなのか、もはやそれを判断することは難しい。
その時、不意に今までの軽快なものとは違い、静かでおごそかな曲が流れ始めた。



(祝福のワルツだわ…!)



シスター・シャーリーの表情が俄かに強張り、唇が微かに動く。
その瞬間、広間の大きな扉が乱暴な音を立てて開かれ、六人の男達に囲まれたラーシェルが現れた。

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