「異世界ファンタジーで15+1のお題」四
010:泡沫
「ゆ…るさん…」

化け物に戻った大臣は、言葉を発するのももどかしそうに唸り、大きな火の玉をターニャに投げ付ける。
二人の弟子達が、見えない壁のようなものを作ってそれをはね返す中で、精神を集中したターニャは一心不乱に長い詠唱を続ける。
化け物は弟子たちにじりじりとにじり寄って行き、それに対抗すべく弟子たちは防御と攻撃の魔法を交互に繰り返した。
鋭い氷の刃は化け物の身体を貫き、あちらこちらから血を流していたが、それでも少しもひるむことなく、化け物はターニャに近付いて行く。
その光景を兵士達は固唾を飲んで見守った。
いつでも飛び出して行けるように態勢を整えながら…

化け物と弟子達との攻防は熾烈を極めたが、化け物はわずかずつではあったが、確実に間合いを詰めていった。
やがて、長い戦いのうちに、弟子たちの方に濃い疲労の色が見え始めた。
二人は滝のような汗を流し、大きく肩を揺らして苦しげに魔法を発動する。
化け物も弱ってはいるが、二人に比べればまだずっとマシに見えた。



「皆、準備は出来ているな?」

「はいっ!」

兵士達は、来るべき時に備え、物陰から身を乗り出した。



「あぁっ!」



まさにその瞬間、弟子の一人が火の玉に包まれ絶叫を上げた。
見えない壁の発動に失敗したのだ。



「ラーゲン!」

炎の熱さに悶え苦しむラーゲンに、ターニャの水の魔法が発動された。
しかし、その甲斐もなく、ラーゲンの身体は化け物に捕まれ、無残に引き千切られた。



「……な…なんてことを…!!」



怒りに身を震わせるターニャの周りに渦を巻いた風が立ち上り、そこにもう一人の弟子も付き添い、ついにターニャの魔法が発動された。



「消えておしまいっっ!」



ターニャが大きく弾みをつけて振り下ろした杖からは、目も眩むような光りが化け物目掛け弾丸のように飛び出した。
光りの弾が、化け物の身体にぶつかる度に、化け物は身をよじらせ苦しみの咆哮を上げ、そして、一際大きな声を上げたかと思うと、そのままばったりと前のめりに倒れ込んだ。
あたりには地響きが伝わり、茶色い土煙が舞い上がる。
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