イージーラブじゃ愛せない
けれど、複雑な表情で固まっている俺に隣の席の胡桃は
「なに辛気臭い顔してんの。ジョージらしくもない」
なんて笑いかけてくる。
なんで?なんでそんなにフツーなの?俺たち3日前に別れたばっかだよね。けっこーな修羅場しちゃったよね。そんでどうして笑えるの?
「胡桃、あのさ……」
たまらず言いかけると、胡桃は笑顔のまま人差し指を俺の口元に当てて
「“柴木ちゃん”でしょ。いつまでも引きずりなさんな。後腐れないのがアンタのいいとこなんだから」
凛々しい瞳を柔らかく緩ませ、そう言った。
“後腐れのない恋”。うん、そうだよ。それって俺の得意技。軽くてお手軽なイージーラブ。何度も何度も繰り返してきた。
でも。
「……ゴメンね。今日は俺、やっぱ帰るわ」
笑えるワケないって。
初めて知ったんだ。本気で好きだったら失った後にヘラヘラ笑顔になんかなれないって。
未練?山盛りだよそんなの。後腐れ?後悔と聞きたい事でいっぱいだってそんなの。
重苦しい。カッコ悪い。俺らしくないよこんなの。自分でも情けなくて腹立つ。けれど。
「ゴメン。まだ一緒に飲んだりするの、しんどいみたい。もうちょっと時間ちょうだい」
そんな簡単にはフツーの友達に戻れないみたい。結構繊細だったのね、俺のハート。
しょぼくれて席を立った俺を、優吾とりんりんは黙ったまま神妙な顔で見つめていたけど。
出口に向かって歩き出した俺の背中に、
「おつかれ。また明日ね」
胡桃の挨拶だけが、何事も無かったように投げかけられた。