六本木グラスホッパー
ボクの名前は黒真木エージという。
この街に五つあるうちの、一番古い中学校に通う中学一年生。十三歳だ。
これといって得意な科目があるわけでもなく、成績は下から数えた方がもしかしたら早いかもしれなくて、運動は嫌いではないけれど得意なスポーツがあるわけでもない。
生まれも育ちも、ここ、煙町、六本木。
青空を知らない、至って普通の十三歳だと自分では思っている。
そして、この彼女は、黒真木カズナ。
ボクの父方の従姉で、十九歳。先ほども言ったようにこの街の風俗店で働くホステスだ。
大酒飲みで、少し化粧が濃いのと派手好きなのが欠点だけれど、ホステスという自分の職業に誇りを持ち、気丈で、天真爛漫な彼女の性格をボクは嫌いではなかった。
ボクはわけあって半年前に家出をして、彼女の家に転がり込んだ。
父はボクが生まれる少し前に事故で亡くなった。
だからボクはずっと母と二人の生活の中で育ってきた。
母は、ボクが家出をしてから二度だけカズナの家に迎えに来たが、最近は迎えに来なくなった。
そうゆう人だ。母親はボクを連れ戻すのを諦めたようだ。
ということで、ボクはこの半年間、従姉のカズナの家から学校に通っている。
カズナは器量がいいし、喋るのも上手だ。だから働いている店では人気があったし、ホステスはそれなりに給料も良かったから収入には困っていない。それにカズナには兄弟がいなかったから、従弟のボクを(表面上にはあまり表さないけれど)可愛がってくれている。
母親の元で暮らしているよりは、カズナとの暮らしの方が、ボクにとっては気が楽だった。
「明日は夜のギリギリまで寝ていたいから、朝起きてもアタシのこと起こさなくてもいいから」
「うん、わかった」
ボクが頷くと、カズナは電気を豆電球だけにしてベッドの中に潜り込んだ。
ボクはその僅かな明かりと、テレビから発せられる明かりだけで、テレビゲームを続ける事にした。リモコンを使って、テレビの音量をギリギリまで小さくした。