恋するリスク
車の助手席に乗り込むと、私ははっとカバンを探る。

「そうだ、シャツ。返すの忘れるところだった。」

デートには大きめのキャメルのカバンから、シャツを出そうとする私に、佐藤くんは横目で呟く。

「・・・まだ、持っててください。」

「え?」

「まだ、家まで時間あるし。

・・・なんなら、返し忘れてもらったほうがいいかな。」

そのまま車は走り出す。

その意味は。

また、会う口実ができるということ。

「うん・・・。」

私はうなづいて、出しかけたシャツをカバンにしまった。


(やっぱり気づいてないのかな。私も、好きだってこと。)


気持ちを伝えようかと心が揺れる。

けれど、迷っているうちに、車は私の家に着いてしまった。

結局、好きだと言う勇気は出ないまま。

「どうもありがとう。」

「いえ。こちらこそ。」

助手席を降りるとき、再びシャツのことが脳裏に浮かんだ。

けれど私は、それに気づいていないフリをする。

「・・・じゃあ、おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」

そのことに、佐藤くんが気づいたのかはわからないけれど。

私たちは手を振って、それ以上は何も言わなかった。
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