恋するリスク
もう、忘れたいのに。

もう、好きじゃないはずなのに。

私は胸がざわついて、言いようのない苦しさと不安に襲われる。

「藤崎さん・・・?大丈夫ですか?」

黙り込む私の髪を、佐藤くんが耳にかけた。

多分それは、私の表情を見るための行為。

佐藤くんに、それ以上の理由はなかったのかもしれない。

けれど。

その瞬間、私は胸の震えに駆られた衝動を、どうしても抑えることが出来なかった。

「藤崎さ・・・、・・・!」

名前を呼ぼうとしてくれた佐藤くんの唇を、私は遮るようにキスで塞いだ。

舌先で佐藤くんの唇をなぞると、もう一度唇を押し当てた。

一度離れて佐藤くんを見つめると、私は彼の首元に手をまわす。

「ちょ・・・、藤崎さん・・・!」

動揺する声。

彼の呼吸が乱れ、鼓動が早くなったのがわかった。


私は、佐藤くんの好意を知っている。


それが、恋愛感情なのか、憧れとか尊敬とか、人間としてなのかどうかは、正直、まだわからないけれど。

きっとこうすれば、彼が心を乱すことを、少なからず私は知っていた。

そして私は今、その気持ちを利用しようとしている。



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