願望クエスト
「僕と愛那は市立図書館で出会った。」

「ちょっと待って、あの愛那が図書館に行ってたってこと…?」

御崎鮎は不思議に思った。原愛那はあまり勉強が得意な方ではなかったので、図書館とは無縁の存在に思えたからだ。

「図書館に行けっていうクエストがあったらしいんだ。」

「なるほど。」

「しばらく愛那は図書館に来ていて、ルーブル美術館の画集を見てるのが気になってさ。それで声をかけたんだ。」

「画集を見てたのもクエストだったってこと?」

「そうらしいね。後で愛那が教えてくれたよ。」

「それと、愛那が自殺したのはどういう関係があるのよ。」

なかなか本題に入らない佐月雅人に御崎鮎はイライラしていた。

「愛那が死んだ前の日に僕らは会っていたんだ。その時、愛那の様子が明らかにおかしかった。」

「どんな風に?」

「アプリを消すのを忘れてた、私は殺されるって言い出したんだ。ノゾミサマが怒ってるって。」

「…はぁ?」

「…だよな。僕も意味がわからなくて、愛那のことが怖くなってた。だからもう帰れよって、家まで送っていったんだ。その間も愛那は真っ青な顔をしててとにかく普通じゃなかった。」

そこまで言って佐月雅人は声をつまらせた。ぐっと下唇を噛んでふるえていた。

「僕が愛那の話…もっと聞いてあげてたら…愛那は死なずにすんだかもしれない…」

御崎鮎は佐月雅人に何と声をかけていいかわからずにいた。足が地面にぺったりとくっついたように、動けなかった。

「御崎さん、願望クエストのこと、詳しく知らないか?愛那がなぜ死んだのか、それを知りたいんだよ…」



少しの間、沈黙が流れた。空気は湿気を含んで肌にまとわりつくようだ。


「…ごめん、私もそのアプリのことよく知らないの…」

「そっか…御崎さん、悪かったね。」


ぼんやりと街灯が照らす道を帰ろうとした佐月雅人に御崎鮎は声をかけた。

「…待って、詳しい人いるかも…!」
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