トイレ、大至急!
‥‥‥‥。
うくぅ!‥ダメだ!ほとんど距離を稼げないうちに、再び波が襲ってきた。
どうしたらいいんだ!?どうするよ、オレ!?
と悩む時間さえ無く、立ち止まざるをえなかった。
なにせ、あと3歩走っていたら『大変な事』になっていただろうから
素晴らしい判断だったといえる。
タイマー付き爆弾を残り3秒で止めた感じに近い。
今回の波はさっきのより大きく、全身の力を尻に集めないとヤバイ。
なので小刻みに震えている。頑張れオレ。
震えながら、のろのろとポケットから携帯を取り出して画面を見つめる。
待ち受け画面に映るセキセイインコのピーちゃんに視点が定まらず、
幾重にもダブって見えてしまう。
別に携帯を使いたいわけではなかった。
急に立ち止まったことに納得いく理由をつけたかった。
『あれ?今携帯鳴った?』作戦である。
だって走っている人が急に立ち止まってじぃーっとしていたら変でしょ?
‥この演技でうまく誤魔化せたかは怪しいが。

『キュル‥グルグルゥ‥』
腹が鳴って、波がひいていった。
この腹痛、今年一番のピンチに認定。
あまかった。
さっきまではピットインする(=トイレに入る)チャンスが
何度もあったのに、ここでは手遅れだ。
家までは残り500m。
楽観的な考えを捨てて覚悟すべき事は、
またすぐに大きな波が、今までで最高の波がやってくるだろうという事だ。
そして、借りられるトイレもない。
まるで死の宣告を受けたような絶望感。
この蒸し暑い午後に、オレの不幸は世界ランク入りを果たした。
もはや走る気力もなく、トボトボと歩くだけだった。

家まで、残り100m。
だが、とうとう地獄が始まった。
また立ち止まり携帯を取り出して画面を見つめる。
ノー天気なピーちゃんの写真に怒りすら覚えた。
苦痛を丸出しにして歪んでいる顔を誰にも見られないよう
壁側に向って立つ。
全身、力が入ってカチコチで首筋はツってきた。
噛み合わせた歯の隙間から激しい息が漏れて
シューシューと音が出ている。
『マジで漏れそうっっ!』
一体どういう事?何故体内からこんなに高圧が生まれるのか?
そしてそれは何のために!?
まさに人体の神秘。オレはこの神秘の力をまえにして限りなく無力だ。
‥降参しようかな。
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