星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「雪貴、風邪引くぞ」


声をかけながら、肩を揺すると
顔色の悪い、雪貴がゆっくりと顔を上げた。


「あっ、託実さん……」


そう言いながら慌てて自分の腕時計に視線を落とす。


「あっ、もう時間だ。
 すいません、学校なんで行きます。

 託実さんは、兄貴とゆっくり話してくださいね」


そう言うとベッドサイドの椅子から慌てて立ち上がって、
ドアの方へと移動する。


その刹那、雪貴の体が一瞬傾いて
その手が胃の近くへと添えられる。


「雪貴?」

「あっ、託実さん。
 大丈夫です。

 今日はスタジオ顔出せません。
 だけど一曲、昨日書き上げた曲をメールしときました。
 また感想ください。

 行ってきます」



慌ただしい様子で、病室を走りだすと
またシーンとした時間が広がる。



今、思えば……アイツの周囲も
あの香港の旅行から慌ただしかったんだ。


8月の香港のファンクラブ旅行。

アイツは、100万ドルの夜景を唯香ちゃんと楽しんだ。
AnsyalのTakaとして。


帰国して、俺が連絡した着信から
唯香ちゃんに、「亀城託実」と言う俺の素性がばれた。

公には公開していなくても、
秘密は漏れていく。

Ansyalのファンなら、
何処からか情報が流れて本名を知られても仕方がない。

秘密って言うのは、
それほどに脆いものだから。



そして今、関係者以外でAnsyalの秘め事を知っているのは、
緋崎唯香。

百花ちゃんの親友の、彼女一人。


その彼女も、幸か不幸か
事実を知った直後、Ansyalに関しての記憶が
ポツリと抜け落ちてしまっていた。

彼女がそんな風になるほど、
重たい秘め事。



それでも俺たちは隠し続ける。



そしてそれは……
雪貴の精神状態を追い詰めていく。



夏休み以降、雪貴の精神状態がヤバいくらいに
追い詰められているのは感じてた。

自らの心を殺して、
AnsyalのTAKAとして有りつづけながら、
必死に唯香ちゃんを支えようとしてる雪貴。

常に自分を追い詰めながら。


アイツは……ダチの弟なんだ……。

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