星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

20.雪恋華  -託実-



ツアーの合間に時間を見つけては、
百花ちゃんのお祖父ちゃんのところや、
理佳のお墓へと足を運び続ける。


隆雪の死後、雪貴の精神状態も最悪で
記憶を取り戻しても、
雪貴を支え続けくれる唯香ちゃんのおかげで、
少しずつ状態が落ち着き始めていた。

だが雪貴は、
今も相棒のゼマティスに触れようともしなかった。

雪貴が退院後は、アイツが住むマンションで
唯香ちゃんが一緒に生活を始めることになった。



そんな雪貴たちの新たな始まりを応援しながら、
俺の方は今だ、進展する気配すら見せないまま
三ヶ月が過ぎようとしていた。



その日も、SHADE関連のツアーを終えて
事務所にバスで戻った俺は、
その足で理佳の眠る墓地へと車を走らせた。



そこでようやく見つけることが出来た百花。



百花は理佳のお墓の前、
絞り出すように、感情を剥き出しに叫び続ける。


泣き叫ぶように、もて余る感情を吐露しながら
体を震わせ続ける。


まるで血を流しているかのように涙を流し続ける
そんな百花が溜まらなく愛しくて、
無言で背後から抱きしめた。


俺だとわかった途端に、
逃げ出してしまいそうで怖かったから。

取り乱したままの百花は、
今も俺の存在には気付かないまま、
腕の中で暴れ続ける。


噛みついて逃げようと必死になる。


噛みたいなら、噛めばいい。


洋服越しに、片腕を一本百花の口元で噛ませたまま
落ち着かせようともう片方の手が空中を彷徨うものの
触れるタイミングが見つけられない。


そうこうしてる間に、
痙攣がおきはじめる百花の体。


これ以上、悪化させないように
百花の体に拳をいれて、気絶させたまま抱きとめた。


力なく横たわる百花をお姫様抱っこで、
抱きとめたまま理佳の墓を黙って見つめる。


「理佳、少し妹預かってくぞ。
 お前の傍には、また来るから」


そう言って、お墓に向けて言葉を発して
愛車へと戻っていく。


俺の愛車の助手席に、
百花を横たわらせて一本の電話を入れる。

百花を自分のマンションに連れて帰ること。
そして百花の車を移動させられる人員が欲しいこと。

今のAnsyalのことで振り回し続ける
存在は、溜息一つで了承してくれた。



自宅マンションへ向かう途中、
車内に響く着信音。


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