星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
そして……親友が眠り続けるこの病院で、
俺が中三の夏に出逢ったのが、
あの頃俺を支え続けてくれた年上の彼女・満永理佳(みつなが りか)。
突発性拡張型心筋症と言う難病と向き合いながら、
必死に生き続けてた理佳を笑わせたくて、アイツの知らない世界を少しでも体験させてやりたくて
必死だったあの頃。
そんな俺と理佳の時間を間に入って取り持ってくれたのも、
親友・隆雪の存在だった。
そんな無茶苦茶な俺の親友が、
あのデビュー1周年の聖夜のあの交通事故から、
2年4ヶ月経った今も意識が回復する兆しはない。
冷たいモニターの電子音が
隆雪の声を届ける唯一のもの。
隆雪が眠るベッド横の椅子に腰かけて
真っ暗な病室で隆雪を見つめる。
「隆雪、今日のLIVEも無事に終わったよ。
お前の弟。
雪貴も、ホント良くやってくれるよ。
だけど俺、アイツ見てると心配だよ。
アイツが今にも壊れそうで」
眠り続ける隆雪に向かって
話し続けるのは、隆雪の弟である雪貴の話題。
隆雪が事故で来れなくなったあの日から、
ファンには事実を伏せたまま
TakaとしてAnsyalのメンバーに仲間入りした雪貴。
雪貴は今も、隆雪の帰る場所を
必死に守ろうとAnsyalのTakaを演じ続ける。
雪貴自身を殺して、隆雪を演じ続けながら。
アイツの心を守るために受け入れたはずの隆雪の影としての役割。
だけどそれは、俺が狙ってたものと別の方向に形を歪めて
雪貴があの頃以上に壊れてしまいそうで、見ていて危うかった。
「なぁ、隆雪。
俺はアイツにどうやって接してやればいんだ。
アイツが壊れていくのを知りながらも、
Ansyalは動き出してる。
アイツのファンも出来てる。
何より……Ansyalを続けていく為には
雪貴が俺たちにも必要なんだよ。
お前が……」
……お前が
眠り続けるから……。
声に出来ない言葉を
思わず……口ごもる。
LIVEは楽しい。
だけど楽しかった時間の分だけ現実は空虚で、
どうにもならない感情を持て余すように
今日も一時間ほど眠り続ける隆雪に話し続けた。
時計の針が夜中の二時をまわった頃、
ゆっくりと隆雪の病室を後にする。
その後……、足が向かう先は
忘れられない場所。
この病院の中でも、特に忘れることが
出来ない場所。