星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「大丈夫。
 この子が私の大切な日に暴れるわけないでしょ。

 だって……」

「理佳の生まれ変わりだから……だろ」


百花が続けようとしていた言葉をそのまま、
俺が続けたら、目の前の百花はぷーっと頬を膨らませる。


そうやって拗ねたような素振りを見せるのも、
今の俺には可愛らしいと思ってしまう。



「はいっ。
 プレゼント」



そう言いながら、手にしていた花束を百花へと手渡すと
百花はびっくりしたように、花束を抱きしめてゆっくりと相本さんへと預けた。



「託実くん、中を案内しようか」



喜多川会長の言葉に、俺はゆっくりとお辞儀をしながら
会場の中を観覧していく。


展覧会の会場となっている部屋には、
床には重厚な雰囲気を演出する絨毯が敷き詰められていて、
壁に飾られた絵画。

その絵画を引き立たせるように演出された
アート照明の柔らかな光。


そんな暖かい雰囲気を感じながら、
ゆっくりと展示されている絵画を一枚一枚と楽しんだ。


そして辿り着いた、最後の一枚。




星空と君の手

亀城百花 作





絵画の下には、百花の名前と作品名がシンプルに紹介されているものの
その絵画を引き立たす天井から降り注ぐ照明の優しい光は、
天国へと扉にも通じるような、そんな世界が広がっていた。



キャンパス一面に広がっていく幾重にも重ねて仕上げられた星空。
その星空へと手を伸ばす存在。


その掌に向けて、空から舞い落ちる天使の羽。



その絵が伝える想いが、
俺と隆雪や理佳、百花と理佳、百花と家族。


そんな形のない宝物へと手を伸ばしていく
そんな思いが、その一筆一筆に閉じ込められているのがわかった。




「託実……伝わる……かな?」



百花が小さく問う言葉に、
俺は力強く頷く。





伝わる……。






俺たちが今までずっと抱え続けてきた時間の全てが、
想いが……この中には、ちゃんと刻まれてる。





「百花、約束通り新作のジャケットに使わせて貰うよ」

「うん。

私もこれは最初から、そのつもり」




そう言うと、百花は俺の目の前で嬉しそうに微笑んだ。




その後も暫く、
俺たちはその絵の前から動けなかった。





今日が招待状客オンリーの日だからこそ、
こうしてゆっくりと、その絵の前に留まり続けることが出来る。






星空と君の手。


この曲を光の下へ送り出すとき、
そのカップリングには、理佳が遺した夜想曲のAnsyalアレンジとセットにしたいと
望みながら、俺の脳内は絵画から広がる曲のインスピレーションでいっぱいだった。


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