星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


産婦人科の主治医をしてくれてた担当の先生をはじめ、
何時もの先生たちが顔を出しては、私を気遣って仕事へと戻って行く。


私の方は言えば、出産に備えての準備が進んでいく。


出産と言えば痛みがつきものだとお母さんたちからは言われてきていたけど、
ここの先生たちは別で、痛みを緩和できるならその方が母体へも赤ちゃんへも影響は少ないからと
無痛分娩と言われるもので、行われることになった。

まだ感覚は長いけれど最初の陣痛を感じて病院に来た私は、
点滴をつけられて、そのままベッド上に腰を丸めて出すように座らされる。


「百花ちゃん、何も心配しなくていいから。リラックスして。
 今から痛みを緩和するように、背中の方から注射して麻酔薬をいれるカテーテルの準備を
 していくからね」

産婦人科の先生の隣、姿を見せて声をかけるのは裕先生と裕真先生。

そのまま私は、背中の皮膚に痛み止めの注射をして貰って、
無痛分娩をするために必要な麻酔薬をコントロールする
カテーテルをつけて貰う。

すぐに薬によって痛みがコントロールされてきたのか、
私は陣痛と言う名の痛みから解放された。


「痛かったら我慢せずに声をかけるのよ」

何度ともなく処置中から、薫子先生に言われ続ける私。

カテーテルを付けた後は、
痛いかどうかを問われるたびに、痛い時は素直に伝えると
薬の量を追加して貰う。

痛みを感じない時は『大丈夫』だと伝える。

そんなやりとりをしながら、
無痛分娩と言われる、痛みのない出産を体験していた。


陣痛の間、痛すぎて大変だったと教えてくれていた出産経験者の友達の言葉が嘘みたいに
私は与えられた部屋で、穏やかに笑いながら時間を過ごせてる。



やがて、お母さんとお父さんと、お祖父ちゃんを連れて託実が病室へと姿を見せる。





「百花、学校に居る唯香ちゃんから電話だよ」



そう言って託実の携帯を、私の方に手渡す。




「百花、大丈夫?
 もうぐ百花がお母さんなんてね。

 学校が終わったらすぐに行くから、
 元気な子産むんだよ」

「有難う唯香。
 今は陣痛起きてるけど、先生たちのおかげで痛みもなくて笑えてるよ。
 散々、友達に脅されてたから嘘みたいだよ」

「まぁ、痛みはない方がいいよねー。
 幾ら、生命の神秘に繋がるものかもしれないけど……。

 さて、私も今から授業に行くよ」

「うん。
 じゃ、唯香も頑張って」



そのまま電話を切った後も、
その瞬間の時間まで、私は家族の皆と普通に会話を弾ませながら時間を過ごした。



「んじゃ、百花ちゃん。
 そろそろ、本格的に分娩準備に入ろうか」


主治医の先生のその一言で、スタッフさんたちが慌ただしく動き出す。


一度、病室に居た皆を外に出る形になって、
分娩準備が整えられた後に、再び入室が許された。




入ってきたのは、薫子先生とお母さんと託実。



「百花が分娩前に笑顔で笑ってるなんてね。

 今はこんな分娩方法もあるのね。
 お母さんの時は痛くて、それどころじゃなかったんだけど」

「この方が、産道も柔らかくて赤ちゃんの為にもいいのよ。
 百花ちゃんも、痛みがない方が呼吸もやりやすいじゃない。

 託実は百花ちゃんの頭元ね。
 音澄【おと】さんは、百花ちゃんの右側をお願いできるかしら」


薫子先生が、お母さんの名前である『音澄』を口にする。
久しぶりに聴いたなー。

お母さんを名前で呼んでる人。


そんなことを思いながら、三人をゆっくりと見渡す。


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