星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】






あまりにも突然の出来事に、
私は放心状態。


自分の作品が売れたら、嬉しいのかもしれないけど
今日の私は恥ずかしい方が先立ちすぎて。


飲み物でも口に含んでたらむせ返って、
大変なことになってたかもしれないけど
今の私は幸いにも、仕事モード。


それ以上、託実の前で醜態をさらすことはなかった。




「ダメかな?」



何も答えられないでいる私を
覗き込むように託実が言葉を続ける。





フルフル。

言葉が紡げないままに、
首を横に振った。




ほっとしたように
微笑んだ託実。




私の絵画は、こうして相本さんによる手続きで
託実の手へと渡った。





放心状態。


あまりの展開についていけていない私は立ち尽くす。



全ての手続きを終えた、
託実が帰り間際、
再び私の方へと近づいてきた。



「百花ちゃん。
 良かったら、友達とおいで。

 今晩シークレットするんだ。
 霞ヶ丘で」



耳打ちするように、
体を寄せて……教えてくれる。




心臓……持たないよ……私……。




「はいっ。
 これ、シークレットLIVEのチケット。

 レアLIVEだけど、
 時間が都合つくならどうぞ」



そうやって手渡されたチケット。

チケットに視線を落としても、
知らないバンドの名前で、いまいちAnsyalっていう実感がない。


「記載されてるバンドは、うちの事務所の後輩。
 後輩の演奏の後、20時半頃からかな。

 俺たちも出る予定だから」


その託実の一言に、
チケットを思わず握りしめて気合も十分。


慌てて手を開いて、ちょっぴりクシャっとなってしまったチケットの皺を
しばしてたら、託実がクスクスと笑い始めた。


「何が何でも行きます。
 唯香も引っ張ってきます」



そう宣言した声がギャラリーいっぱいに
広がっちゃった。




何時の間にか閉店時間の18時は過ぎて、
画廊には託実さま一人のみ。



良かったー誰もいない。


ほっとしてる間に託実は、
「じゃ」っと手だけ軽くあげて
ギャラリーを出て行った。





……腰抜けたよー……。




< 26 / 253 >

この作品をシェア

pagetop