愛してるの伝え方
歩いていたら、知っている顔を見つけてしまった。

「……麻木?」

女の声が私の名を呼んだ。
その声の持ち主は目の前で立ち止まっている。
無視していくわけにもいかないみたいだ。

……会いたくなかったな。

「お久しぶりですね」

浴衣を胸元を広げて着ている。
そういえばこんな着方をしている人ちらほらいたな。
この着方に何か名前があるのかもしれないけど、私はあえて花魁と名付けよう。

花魁は私を見て鼻で笑った。

「相変わらずね」

「あなたも変わりませんね」

名前は忘れたけれど、この顔は覚えている。
何度もこの目に見下されたし、何度もあの鼻で笑われた。

向こうは三人組みたいだ。
全員見覚えはある。やっぱり名前は忘れたけれど。

今私の近くに瀬戸くんはいない。
多分ここで立ち止まっていることに気付いてないのだろう。

それでよかった。
いたらいたで、更に面倒なことになる。

< 20 / 94 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop