♡短編恋愛集♡
 強引にその唇を割ろうとした。
 受け入れろよ? 僕を。
 なんで僕はこんなことしてるんだよ?
 なんなんだよ? コレ。
 そういうつもりぢゃないのかよ?
 馬鹿みたいぢゃん、これぢゃぁ。
 独りよがりかよ?
 僕は、唇を離した。
 気がつけば自分の眼が濡れていた。
 頬を冷たいものが流れた。
 ここまで来て受け入れてもらえない・・・こんなことは初めてだった。
 なんだよ・・・僕が襲われたみたいぢゃん。
 その涙をミクの指が拭った。
「なんでなんだよ? 何でこうなっちゃうんだよ?」
 あとからあとから涙が溢れてきた。
 ミクを組み敷いたままで僕は子供みたいに泣いてしまった。
「いくら身体を重ねても心までも重なることはないのよ? 心が欲しいんでしょう?」
 その言葉に僕はやっと気付いた。別れた彼女もその前の彼女とも今まで付き合ってきたきた中で足りなかった物。僕が本当に欲しかったもの。
 僕はミクに酷いことをしたのに彼女は僕のこと優しく胸に抱き寄せてくれた。
「私、知ってたの。マスター・・・義兄さんから色々聞いてて。何度かフォーシーズンで見かけたことあったし。寂しい眼をした人だってずっと思ってた。そのくせ明るく振舞うし。知らなかったでしょう? 会社帰りでいつも地味な恰好してたし」
「うん・・・」
「あなたのこと・・・雄太郎のこと気に入ってたから、尚更こういうの嫌だったの」
 優しく優しく僕を落ち着かせるように髪を撫でてくれる。時折、爪が肌をかすめてゾクッとする。幸せと不幸を一度に味わってる奇妙な感覚。
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