誘導
佐保は映画を観に行く日程を考えているようだった。口を紡いではいるが、目はまるで幼い子供のように目は輝いていた。彼女の表情を見ると、弘樹は幸福感に満たされるようだった。恋とはこう言うものなのだ、と自信を持って言える。映画を観る事に意味があるのでは無く、彼女と一緒に時間を共有する事に意味があるのだ。
「うーん、じゃあ来週の土曜とかどうかな。」
「俺は大丈夫だけど、佐保は来週の土曜で大丈夫なの。」
今日は金曜日だ。来週の土曜日まであと八日もある。弘樹的には気が乗っている今の内に観ておきたかった。
「うん、公開してまだ間もないし。ちょっと公開日から経っていた方が、席が空くでしょ。」
「座る場所くらいは何時だってあるとは思うけど。まぁ、楽しみは来週に取っておくか。」
「うん。」
そう言うと、彼女は満足気な表情を浮かべた。
「原作の小説、また最初から読みたくなっちゃった。」
「そんなに読んだら飽きちゃうぞ。」
「えー。」
駅前の信号機が目の前で赤になり、二人は信号の前で足を止めた。待ちくたびれたと言わんばかりに、早いスピードで自分達が今来た坂を車が駆け上がっていった。
「信号、青になったよ。」
「うん。」
佐保と弘樹の住んでる地元は、駅から真逆の方角だった。佐保の家は学校から近く、自転車を使えば十分もあれば家に着く。だから、駅の駐輪場に自転車を止めている。それに比べ弘樹の家は、学校の近くの駅から三つも駅を挟んでいる。
「また月曜日会おうね。」
「おう。」
弘樹が佐保に手を振ろうとした時、急に強い風が吹いてきた。八月の夕方に吹く風にしては、妙に涼しかった。佐保の腰まで伸びた長い髪がふわりと揺れる。乱れた前髪を手で覆いながら、佐保はにこりと笑い、弘樹に手を振った。
「佐保は細いから、風に飛ばされないように気をつけろよー。」
そう弘樹が言うと、佐保は頬を膨らませながら背を向けて歩いた。弘樹は、暫く駐輪場まで向かう佐保の後ろ姿を見つめながら、彼女と話した一言一言を反芻し、感動の余韻に浸っていた。弘樹は二人で映画を観た後に、佐保に告白をしようと前々から決めていた。来週の土曜日が勝負なのだ。弘樹はその場で大きく深呼吸をすると、勇み足で駅のホームへと向かった。
「うーん、じゃあ来週の土曜とかどうかな。」
「俺は大丈夫だけど、佐保は来週の土曜で大丈夫なの。」
今日は金曜日だ。来週の土曜日まであと八日もある。弘樹的には気が乗っている今の内に観ておきたかった。
「うん、公開してまだ間もないし。ちょっと公開日から経っていた方が、席が空くでしょ。」
「座る場所くらいは何時だってあるとは思うけど。まぁ、楽しみは来週に取っておくか。」
「うん。」
そう言うと、彼女は満足気な表情を浮かべた。
「原作の小説、また最初から読みたくなっちゃった。」
「そんなに読んだら飽きちゃうぞ。」
「えー。」
駅前の信号機が目の前で赤になり、二人は信号の前で足を止めた。待ちくたびれたと言わんばかりに、早いスピードで自分達が今来た坂を車が駆け上がっていった。
「信号、青になったよ。」
「うん。」
佐保と弘樹の住んでる地元は、駅から真逆の方角だった。佐保の家は学校から近く、自転車を使えば十分もあれば家に着く。だから、駅の駐輪場に自転車を止めている。それに比べ弘樹の家は、学校の近くの駅から三つも駅を挟んでいる。
「また月曜日会おうね。」
「おう。」
弘樹が佐保に手を振ろうとした時、急に強い風が吹いてきた。八月の夕方に吹く風にしては、妙に涼しかった。佐保の腰まで伸びた長い髪がふわりと揺れる。乱れた前髪を手で覆いながら、佐保はにこりと笑い、弘樹に手を振った。
「佐保は細いから、風に飛ばされないように気をつけろよー。」
そう弘樹が言うと、佐保は頬を膨らませながら背を向けて歩いた。弘樹は、暫く駐輪場まで向かう佐保の後ろ姿を見つめながら、彼女と話した一言一言を反芻し、感動の余韻に浸っていた。弘樹は二人で映画を観た後に、佐保に告白をしようと前々から決めていた。来週の土曜日が勝負なのだ。弘樹はその場で大きく深呼吸をすると、勇み足で駅のホームへと向かった。