誘導
何週間かすると、誠はバイトにも行かなくなった。急にバイトへ行かなくなり、家に引こ込もっている兄を見た妹は、酷く心配しているようだった。妹は高校三年生で、大学受験を控えていた。母は一日中働いているので、誠の変化には気付いていないようだ。幼い時は母と中々話せない事を嘆いていたが、今になっては好都合だった。
スマートホンが振動して、音を鳴らした。緑色のランプが一定の間隔でちかちかと光っている。コミュニケーションアプリ、リンクからの通知だ。学校の友人が何人か心配してメッセージを送って来ている。内容を見ると既読マークが付くので、見るのも面倒だった。
誠は、どうすれば叶の事を知れるのかをここ最近、ずっと考えていた。出会い系紛いなSNSアプリの掲示板を、一日中閲覧していた日もあったが、彼女の書き込みは見当たらなかった。それはそうだ。幸福な大学生がそんな出会いを求めてる筈がないのだ。こんなアプリの掲示板に書き込んでいたのなら、彼女の事を少し軽蔑してしまっていただろう。その心配はなくてほっとした。
叶に会う為には、カラオケ店に居続けるのが手っ取り早いとは思うが、一度シフトを入れなかったら面倒臭くなった。カラオケ店に客として行くのも考えたが、伊月の顔が浮かぶと、その選択肢もすぐに泡のように消え去った。
叶と会った日は遠のいていくのに、想いはどんどん膨れ上がっていった。
そして、次第に彼は彼女を殺したい程愛おしい、と思うようになった。
彼女への想いが起爆剤として湧き上がったのだろう。人に対して、これ程までに殺したいほど独占したいと思った事はなかった。彼女の魅力がそうさせているに違いない、この感情こそが愛なのだ、そう彼は次第に錯覚するようになった。
海外で冷凍保存されている俳優のように、今の彼女の姿のまま記憶の中に焼き付けたかった。幾つ歳を取ったとしても、彼女は夢の中で変わらないまま誠と時を過ごすのだ。
夢の中で時にはデートをし、過去を語り合い、そしてセックスをする。二人にとって、それは幸せな筈だ。
その為に彼女は生きていてはいけない。自分の手で彼女の命を断たなければならない、そんな強い使命感に駆られた。愛しの彼女に会いたいという衝動と、性的欲求を満たしたいという感情が日に日に大きくなっていった。二人が結ばれるまでの火蓋は、初めて会ったその日から切って落とされていたのだ。
「俺達の出会いは、必然だ…。」
家の中には誰も居ない平日の真昼に、誠は部屋で呟いた。そして、勉強机の上から二番目の引き出しからサバイバル用のツールナイフを取り出した。
高校生の時にキャンプをした時以来、使っていなかったものだ。まさかこのような用途で再びこれを使う事になるとは、恋を知らない昔の自分には想像もつかなかっただろう。
誠はナイフを握ると、不敵な笑みを浮かべた。自分の幸せな恋路の先行きを考えると、笑いが込み上げてきたのだ。彼は笑い声を漏らしながら、彼女の住所をどのようにして調べようかを考えていた。
探偵に頼むのは奥の手で良い。顎を触ると、髭が好き勝手に伸びていた。大学に入ってから、髭は毎日のそうに剃っていたのに、すっかり気にならなくなっていた。これも全て、悩ましい恋の所為に違いなかった。
部屋の真ん中で胡座をかき、何分間考えていた事だろうか。不意に、スマートホンがぶるぶると音を立てた。うるさいな、と呟いた後、暫くじっとスマートホンの緑色に光るランプを見つめていた。
すると、誠は閃いた。後は、実行に移すまでだ。あの手が触れ合った時の、電流が流れるような感覚を、再び感じられる日はすぐそこにある。伊月の顔がふと頭を過ぎったが、彼の目などもうどうでも良かった。
そう、もう彼女の事以外は、全てが些細な事なのだ。
常識なんて誰かが決めたルールに縛られる必要は無い。これを失敗したら、一生後悔する…。そう誠は思い、決意を固めた。
スマートホンが振動して、音を鳴らした。緑色のランプが一定の間隔でちかちかと光っている。コミュニケーションアプリ、リンクからの通知だ。学校の友人が何人か心配してメッセージを送って来ている。内容を見ると既読マークが付くので、見るのも面倒だった。
誠は、どうすれば叶の事を知れるのかをここ最近、ずっと考えていた。出会い系紛いなSNSアプリの掲示板を、一日中閲覧していた日もあったが、彼女の書き込みは見当たらなかった。それはそうだ。幸福な大学生がそんな出会いを求めてる筈がないのだ。こんなアプリの掲示板に書き込んでいたのなら、彼女の事を少し軽蔑してしまっていただろう。その心配はなくてほっとした。
叶に会う為には、カラオケ店に居続けるのが手っ取り早いとは思うが、一度シフトを入れなかったら面倒臭くなった。カラオケ店に客として行くのも考えたが、伊月の顔が浮かぶと、その選択肢もすぐに泡のように消え去った。
叶と会った日は遠のいていくのに、想いはどんどん膨れ上がっていった。
そして、次第に彼は彼女を殺したい程愛おしい、と思うようになった。
彼女への想いが起爆剤として湧き上がったのだろう。人に対して、これ程までに殺したいほど独占したいと思った事はなかった。彼女の魅力がそうさせているに違いない、この感情こそが愛なのだ、そう彼は次第に錯覚するようになった。
海外で冷凍保存されている俳優のように、今の彼女の姿のまま記憶の中に焼き付けたかった。幾つ歳を取ったとしても、彼女は夢の中で変わらないまま誠と時を過ごすのだ。
夢の中で時にはデートをし、過去を語り合い、そしてセックスをする。二人にとって、それは幸せな筈だ。
その為に彼女は生きていてはいけない。自分の手で彼女の命を断たなければならない、そんな強い使命感に駆られた。愛しの彼女に会いたいという衝動と、性的欲求を満たしたいという感情が日に日に大きくなっていった。二人が結ばれるまでの火蓋は、初めて会ったその日から切って落とされていたのだ。
「俺達の出会いは、必然だ…。」
家の中には誰も居ない平日の真昼に、誠は部屋で呟いた。そして、勉強机の上から二番目の引き出しからサバイバル用のツールナイフを取り出した。
高校生の時にキャンプをした時以来、使っていなかったものだ。まさかこのような用途で再びこれを使う事になるとは、恋を知らない昔の自分には想像もつかなかっただろう。
誠はナイフを握ると、不敵な笑みを浮かべた。自分の幸せな恋路の先行きを考えると、笑いが込み上げてきたのだ。彼は笑い声を漏らしながら、彼女の住所をどのようにして調べようかを考えていた。
探偵に頼むのは奥の手で良い。顎を触ると、髭が好き勝手に伸びていた。大学に入ってから、髭は毎日のそうに剃っていたのに、すっかり気にならなくなっていた。これも全て、悩ましい恋の所為に違いなかった。
部屋の真ん中で胡座をかき、何分間考えていた事だろうか。不意に、スマートホンがぶるぶると音を立てた。うるさいな、と呟いた後、暫くじっとスマートホンの緑色に光るランプを見つめていた。
すると、誠は閃いた。後は、実行に移すまでだ。あの手が触れ合った時の、電流が流れるような感覚を、再び感じられる日はすぐそこにある。伊月の顔がふと頭を過ぎったが、彼の目などもうどうでも良かった。
そう、もう彼女の事以外は、全てが些細な事なのだ。
常識なんて誰かが決めたルールに縛られる必要は無い。これを失敗したら、一生後悔する…。そう誠は思い、決意を固めた。