梅花の軌跡
「あたしは…」
これって言っていいのかな?あたし新撰組のことはお父さんとお母さんに小さい頃からずっと聞かされてるし、この人たちの運命を知っている。
もしそのことを話して歴史が変わったら?
そもそも歴史って変えることはできる?
いや、私がこの時代に来た時点で歴史は変わっているのかも…
ぐるぐると考えが頭を巡っているとき、ふと襖が空いていて、その先のものが見えた。
「…ここって剣術を修行するためのところですよね?」
「そうだが?さっきのかっちゃんの質問に答えろよ」
にやつく口元。元々大きい目をもっと開き、輝く瞳。
「…土方さん。私と剣術で勝負してください。」
あたしは純粋にやりたいと思った。ただ、刀の達人と勝負をしてみたい、という好奇心からきていた。
「お前、女じゃねぇか。」
「そんなの関係ありません。私は剣術に自信がありますし。あなたの剣と交わってみたいんです。」
勝負したい。新撰組の鬼の副長の実力を確かめてみたい。
「いいじゃないかトシ。」
かっちゃん!?と驚く土方さんを無視して近藤さんは続ける。
「君は刀を扱うのが好きだろ?顔で分かるよ。」
私も同じだからね、と微笑む近藤さん。
「じゃあこうしよう。トシはこの試衛館の中でも1、2番目に強い。だから、もっと下の方のやつとやってみないか?」
「下の方…?」
「そうだな…平助とか良さそうだ。」
平助…あ、藤堂平助だ。新撰組の八番隊組長になる人。
「分かりました。やらせてください」
「お前、下の方とは言っても平助は強いぞ。」
土方さんは強い眼差しであたしに言う。あたしは強ければ強いほど戦いたい。
剣が好きだから。
「今日はもう遅い。明日の朝、勝負するとしようじゃないか。」
近藤さんがふすまから外を見ながら言う。
あたしは月が高く上っていることに気づき、言葉に甘えさせてもらおうとした。
「おっと忘れてたよ」
立ち上がり部屋を出ようとした近藤さんはこちらを振り向く。
「かけをしよう」
「かけ…ですか?」
「明日平助が勝ったら君のことを包み隠さず教えてもらうよ。平助が負けたら…トシ」
「ん?」
ニヤリと近藤さんはいたずらに笑う。
「トシ、お前が彼女に甘味をおごってやれ」
甘味!この時代にはケーキとかないんだろうけど、あたしは和菓子の方が好きだからぜひ食べてみたい!
あたしには、戦うという目的に新しく甘味を食べるという目的が加わった。
「なんで俺が…」
「お前さっきから彼女が勝てないという風に言ってるじゃないか」
それはそうだけど…とゴニョゴニョ言っている土方さんを無視し、近藤さんは続ける。
「そういうことでいいな」