サヨナラなんて言わせない
さっきまでどこか浮かれていた気持ちが一気に我に返っていく。

「僕はどこにも行きませんよ」

真顔でそう答えると、しゃがみこんで服の裾を掴んだままの涼子の手をそっと握った。

温かい・・・
熱のせいだけじゃない。
久しぶりに触れたその手には、昔と何も変わらないぬくもりがあった。

その時、キュッと彼女の手に力が込められ俺の手を握り返す。
そのしぐさがたまらなく愛しくて、切なくて、
今にも泣きたくなるほど胸が締め付けられる。

俺はその上から包み込むようにもう一方の手を重ねると、
不安そうにこちらを見上げる彼女に微笑んだ。

「僕はどこにも行きません。だからゆっくり眠ってください」



そう、俺はもう二度と君の傍を離れない。

一生君だけを愛していく。



俺の言葉に安心したのか、涼子はほっとしたように口元を緩ませ、
それと同時に綺麗な瞳から涙がぽろっと零れ落ちた。
そしてゆっくり微笑むと、やがて静かに眠りの世界へと落ちていった。


「・・・・・・大好きだよ」


俺は濡れた瞼にそっと口づけを落とした。
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