もうひとつのエトワール
序章

人通りの多い駅前を通り過ぎて、立ち並ぶ店も行き交う人もまばらになってきた頃に現れる煉瓦造りの小さなお店、それが“エトワール”。

ここは、前田 棗(まえだ なつめ)と菜穂(なほ)の双子の兄妹が経営するパン屋である。


「菜穂さん、どうかしたんですか?」


唐突な問いかけに顔を上げると、最近よく来る大学生の本庄 真希(ほんじょう まき)が、コテっと首を傾げてこちらを見つめていた。


「別にどうもしないけど……。なによ、唐突に」

「いえ何となく、どうかしたかなーっと思って聞いてみただけです」

「……この天然娘が」


ため息をこぼしながらぼやいて、再び本日の売り上げ計算に戻る。

一見すると眼鏡の知的キャラかと思わせて、真希はただの眼鏡の天然だ。

初めは男ウケを狙った作り天然かとも思ったが、常連と化した今ならばこれは本物だとよくわかる。
< 1 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop