もうひとつのエトワール


「ところであんた、いつまでここにいる気?掃除も終わったし、パンも選んだだろ」


とっくに閉店時間を過ぎた店で、掃除等の後片付けを手伝った真希は、そのお礼に貰った売れ残りのパンで、来た時よりも鞄がだいぶ膨らんでいる。


「はい、今日も売れ残りをいっぱいありがとうございます!だけど私、棗さんを待っているんです。送ってくれるついでに、ご飯に連れて行ってくれるそうなので」

「売れ残りをいっぱいとか……そんな嬉しそうな顔で言うな」


いつもは誰よりも早く仕事を終わらせて真希を待っている棗が、今日ばかりは待たせる側に回っている理由がこれでわかった。


「まあでも、女が支度に時間がかかるのはわかるけどさ、男が女を待たせてまで支度に時間をかけるってのはどうなの。あいつ今頃、気合い入れて髪のセットしてるよ、きっと」


計算機を叩きながら呟くと、クスッと笑う声が聞こえて思わず顔を上げた。


「男の人だって、時間がかかってもいいと思いますよ。それに棗さん、時間かかるけど急ぐからごめんね!って前もって言ってくれましたし」
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