世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話

 ほら、思い出せと彼にほっぺたをびろーんと引っ張られた。

「やーめーれー」

「思い出した?」

 変な声を出すと、彼はようやく手を離してくれた。

「し、絞り出す」

 ほっぺたをさすりながらそう言うと、くすりと笑われる。初めてあった頃は、こんなヒトだなんて思いもしなかった。

「ああ。家に電話したらお手伝いさんが出て、『お嬢様はただいま出かけておりますが』って言われたとか」

「わお、定番だな!」

「でも、家にお手伝いさんがいるってお家は珍しかったよ。その子、隠したかったみたいで慌ててたんだって」

「そんなもん?」

「さあ?」

 言うと、彼は苦笑した。
 私があまり人付き合いが得意じゃないのを彼は知っている。元々は、人間ってものにあまり興味がなかったって事も。

「で、それから?」

「ええ~。まだ聞くのぉ?」

「さくらの全てを知りたいんだ」

「嘘ばっか」

「嘘じゃないさ」

 彼はそう言うと、私のほっぺたにそっとキスをした。
 そのまま、腕を引っ張られて、彼の足の間に座らされた。

「で?」

 本当に諦める気はないのね。
 でも、私を抱きしめながら、耳元で囁かれると、答えないわけにもいかない気分になる。

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