CHECKMATE
病室に着くと、千葉の携帯が震え出した。
「夏桜、悪い。剣持に電話して来るな?」
「うん」
「あっ、そうだ!ほら、これ」
「すっかり忘れてた、ありがとう」
千葉は車椅子のハンドル部分に掛けていた袋を夏桜に手渡し、病室を後にした。
「絵里さん、マカロン買って来たの。一緒に食べよう?」
「いいの?」
「勿論!」
夏桜は紙袋からマカロンの入ったカップを取り出し、サイドテーブルの上にあるウェットティッシュに手を伸ばすと。
「夏桜さんが羨ましい」
「え?」
「あんなカッコいい彼氏がいて、仕事もバリバリしてて。私も、夏桜さんみたいな人生を歩みたかったな」
「…………私は、絵里さんの方が羨ましいよ」
「えっ?……どうして?」
無言で顔を歪める夏桜をじっと見据える絵里。
けれど、その瞳は酷く苦しそうな色を滲ませていて、絵里はそれ以上踏み込んではいけない世界なのだと悟った。
「わぁ、美味しそうなマカロンだねぇ」
「………う、うん」
絵里は話題を替え、夏桜が取ってくれたウェットティッシュで指先を拭き取る。
「食べないなら、私が全部食べちゃうよっ?」
「えっ……?あっ、ダメッ!!ここのマカロン、凄く美味しいんだからっ」
『他人には触れては欲しくない事がある』……そう悟った絵里。
自分と照らし合わせ、夏桜の心の闇を垣間見た瞬間でった。