CHECKMATE
切羽詰まったような声色に観念した夏桜は、ゆっくりと瞼を押し上げた。
「耐え切れないほど、痛むのか?」
「へ?…………ううん、体調は悪くないわ」
「じゃあ、何で、…………薬に頼った」
「…………どういう意味?」
あくまでもシラを切っていると感じた夏桜の態度に、大きな溜息を零した千葉。
握りしめている手首を手繰り寄せ、夏桜を抱きしめた。
「何度でも言うぞ。俺はお前の味方だし、隠す必要は無い。些細な事でも何でも吐き出していいんだ。どんな事でもいいから、頼むから俺を頼ってくれ。だから、…………安易に薬に手を出すな。隠しているつもりだろうが、刑事の俺には嘘は突き通せないぞ。………微かに、シンナーのような匂いが……」
「ッ!!」
千葉の言葉に合点がいった。
薬(ヤク)、薬、薬、と何度も口にした千葉。
夏桜の指先から香ってくるマニュキュアの臭いがそう思わせたのだろう。
現に、彼は切実に訴えているのだから。
普段はお洒落とは縁遠い夏桜だが、千葉を意識して、ちょっと冒険した結果、千葉に勘違いさせてしまったのだ。
けれど、そんな彼の優しさに触れた夏桜は、思わず笑みが零れた。
「何がおかしい」
「だって……」
肩が小刻みに揺れるほど、夏桜はおかしくて仕方がなかった。
刑事だから? 男性だから??
たかがマニュキュアごときに、事件でも起きたのかってくらい真剣な表情の千葉。
夏桜のことを心配しての行動なのだが、過保護すぎると言っても過言じゃないほど、取り乱しようが尋常じゃない。
けれどその優しさが、本当に嬉しかった。
これまで、こんなにも自分のことを心配しれくれた人がいただろうか?
人と関わることから逃げて来た夏桜にとって、人の温かみを噛み締めた瞬間であった。