CHECKMATE
「いい加減にしろ、本気で怒るぞ?!」
「フフフッ、だってぇ~」
本庁に向かう車内、夏桜は先ほどの光景を思い出して笑いが止まらなかった。
心配してくれたとはいえ、指先の残り香で、あんなシチュエーションになるとは……。
刑事ならではの発想が、クールな夏桜の仮面を打ち砕いていた。
「そういう顔も出来るんだな」
「へ?………何か言った?」
「いや、何でもない」
「ねぇ、今何て言ったの?」
「気にするな、大したことじゃない」
「そうなの?……私、笑い死ぬかもっ」
脇腹を抱えながら肩を揺らし、目尻に薄っすらと涙まで浮かべて。
夏桜は、こんなにも腹の底から笑ったことが無かったのだ。
常に人と接する時、ある程度の距離を保っている。
いつ、化け物扱いされるか分からない状況の中で、自然に身についた防御方法。
幼い頃、心を許した友人に酷く詰られた記憶が今も鮮明に残っているからだ。
だからこそ、こんな風に素の自分を曝け出すこと自体、稀な事であった。
「ほら、そろそろ着くぞ」
穴があったら入りたいと思う千葉だが、夏桜が他言するとは思えなかった。
だってそんなことをしたら、千葉と一つ屋根の下に住んでいると打ち明けるようなものだからだ。
千葉は呆れ顔で、夏桜の頭をポンと軽く叩く。
すると、
「二人だけの秘密がまた増えたわね」
夏桜は双眸を細め、小悪魔っぽく不敵微笑んだ。