泣きたい夜には…~Shingo~
救急外来に1台の救急車が入って来た。
「香澄!!!!」
ストレッチャーに乗せられた先生の奥さんは、顔を歪め、破水によって始まった陣痛の痛みと戦っていた。
「あなた」
痛みを堪え、不安げな瞳を向ける奥さんに先生は、
「香澄、大丈夫、大丈夫だから」
優しく微笑みかける様子に、先生の奥さんへの深い愛が感じられた。
仮面夫婦かと思っていたけれど、ふたりの間にある夫婦の強い絆を見たような気がした。
「先生は外でお待ちください!!!」
看護師に制され、奥さんを乗せたストレッチャーは分娩室に入って行った。
「悟さん、主人に入院したことを連絡してきますね。あなたはここで香澄の無事を祈っていてちょうだいね」
奥さんに付き添っていた香澄夫人の母親、坂田教授夫人が向井先生に優しく声をかけると、病院の外に出て行った。
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