泣きたい夜には…~Shingo~



「お前、何するんだよ!!!」


彼女の予想外の行動に、反射的に飛び起きた。


彼女は後ずさる俺を壁際まで追い詰め…


これが世にいう壁ドンってやつなのか。


って、ドキドキしている場合じゃねぇ!


「私はお前じゃないわ、“ひとみ”よ」


そう言うと、俺の頬を両手で優しく包み込むとふわりと唇が重なった。


ただでさえ飲みすぎで心臓が暴走しているというのに、唇の柔らかさに思考回路は完全にフリーズし、どうしたら
いいのかわからなくなってきた。


「成瀬さん…」


ひとみが耳元で囁いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。


ひとみを床に横たえ、驚く彼女を見つめると、


「傷ついても知らねぇよ」


そっとひとみの頬に触れた。


ひとみは首を振って、艶やかな笑みを浮かべると、


「もうこれ以上傷つくことなんてないわ。

向井のこと、忘れさせて…」


この言葉で迷いは消えた。


.
< 29 / 156 >

この作品をシェア

pagetop