夢のような恋だった

そのまま歩いて行く彼は、五分に一度くらい私を背負い直すために立ち止まる。
なんだか申し訳なくて、「ごめんね」と呟くと、彼から返事が来る。


「うーん。まあ確かに疲れはするし。ご褒美ほしいな」

「ご褒美って?」


身を乗り出すと彼が黙る。
顔が見たいのに、背中にいたら全然みえないや。


「ね、何がほしいの」

「……」


どうして黙るの。

気になるじゃないの。
智くんにならなんだってあげるのに。


「言ってよ。なんでも言うこと聞いてあげる」

「じゃあさ」


背中にピッタリ耳をくっつけると、智くんの声とともに振動が伝わってくる。


「名前……呼び捨てで呼んでよ」

「……え?」

「紗優、ずっと君付けで呼ぶじゃん。付き合ってからも。紗優のほうが歳上なのに」

「え、でも」

「ちょっと呼び方変えてみてよ」


でも、お母さんもお父さんのこと英治くんって呼ぶし。私的には全然違和感なく呼んでたのに。
くん、を取るだけなのになんだか気恥ずかしいよ。


「と、じゃあ」


ぎゅっと首に回した手に力がはいる。

嫌だぁ、変に緊張しちゃう。

「さ、さとる」

「もう一回」

「ええ?」

なんの羞恥プレイなの。
恥ずかしい。
なんか、よくわからないけど、ものすごく恥ずかしい。

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