夢のような恋だった


 そして顔合わせ当日。
たまたま本屋にやってきた草太くんが、「今日行ってもいい?」と聞くので私は首を振る。


「何か今日あんのか?」

「言ってなかったっけ。仕事の顔合わせ」

「最近なんか描いてたやつ?」

「そうそう」


草太くんは、私の仕事にはあまり関心がない。

絵とかそういうものがそれほど好きじゃないのだろう。
いつも遠目に眺めて、私が終わらせて近づいてくるのを待っている。

聞かれないから私も言わないってのが基本スタンスだ。


「今日は遅くなるから、来ないでね」

「ふーん。じゃあ明日行くな」

「うん」


タンパクとも思える会話を交わし、草太くんは帰っていく。

信じてさえいれば、彼は優しい。
茂くんが余計な情報さえ私に吹きこまなければ、私達はそれなりに順調に過ごしている気がする。

 
 そして一度家に帰って、メイクを直して着替えをした。
薄いピンクのワンピースに半袖の白いカーディガン。
一応仕事関係だし、ちゃんと見えるレベルの服装をしなくちゃ。

待ち合わせの時間に合わせて指定の最寄り駅まで来ると、先に来ていた山形さんが手を振って迎えてくれる。


「葉山さん、こっちですよー」


山形さんはポロシャツにスラックスといういつもの格好だ。あんまりかしこまりすぎたかな、と逆に焦る。

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