ある派遣社員の男
・・それから、彼の無機質な日常が変わりはじめた。‌‌
まず、男はコーヒーを飲めなくなってしまったと言う。‌‌
それは罪悪感から来ているのかは、分からないが。‌‌
市販のコーヒーすら飲めなくなってしまったのは恐れ入る。‌‌

そして、夜勤が始まる夕方に、彼は誰の知るよしもない苦しみを味わうのだった。
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OL同士が、カップに入った尿を片手に談笑している。‌‌
部長がパソコンを前に、難しい顔をしながら尿を飲んでいる。‌‌
ソファに座るお得意先に出したのは・・コーヒーカップに入った俺の尿だ。‌‌

彼は指をくわえながら、自分の尿がオフィスを駆け巡るのを眺めていた。‌‌
この行為を、ざっと一ヶ月。‌‌
勤務した時は必ず尿を入れたと彼は語った。‌‌
罪悪感を感じておきながら尿を入れる。‌‌
それは、彼が奇人レベルのマゾヒストであり、自分を精神的に追い込む事で快楽を得ていたと考えられる。‌

いや、これが彼に出来る精一杯の自己表現。‌‌
社会に対する、唯一の反抗なのかもしれない。‌‌
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