佐藤さんは甘くないっ!

昨日は、宣言通り佐藤さんとひたすらお酒を飲んだ。

深夜にやっていた洋画をBGM代わりに流しながら、だけど何を話したのかいまいち覚えていない。

おつまみにサラミやチーズを食べて、美味しいお酒を飲んで、……それから。

……佐藤さんは、一度だってわたしに触れなかった。


「(……約束、守ってくれたのかな)」


すやすやと眠る横顔をじっと眺める。言うまでもなく寝顔もかっこいい。

同じベッドで眠ることへの抵抗を忘れてしまう程、佐藤さんは忠実に約束を守ってくれた。

佐藤さんは、いいひとだ。心の中で何度も反芻する。

わたしには勿体ないくらい。

ほら見ろ律香め。佐藤さんと何も無かったよ。

眠っているのを良い事に、そっと黒髪に指を絡める。

きっと今、わたしの髪も同じ匂いがするんだ。

そう思った瞬間また心臓がどきどきして、本当に同棲しているような気持ちになった。

鼓動が早まる度に嫌でも突き付けられてしまう。


「……佐藤さんが、好き」


無意識の内に唇を割ったのは、まだ言えない恋心。

佐藤さんから反応が無いことを確認して、ふうと溜息を吐いた。

まだだめだ、まだ言えない。

律香もわたしの気持ちなんてとっくに解ってる。

佐藤さんも、知っているのかもしれない。

だけどまだ自信がない。

佐藤さんの隣を歩く自信も、支えていく自信も。

きっと佐藤さんはわたしの支えなんて求めないし、寧ろ支えてやるくらいのことを言うだろう。

だけどそれじゃ嫌だから。

それに……


「……もうすぐ優輝が、帰ってくる…」


呟いた言葉は静寂に溶けて消えていった。
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