佐藤さんは甘くないっ!

優輝(ゆうき)はいつも笑顔だった。

名前の通り、いつもいつも優しくて。

我儘で面倒臭いわたしのことを許してくれて。

大学1年生のときに知り合ってから、気付けば卒業までずっと隣にいた。

このまま結婚するんじゃないかって、今思えば子どもの戯言だとしても、本気でそう思っていた。

就職の所為で別れたとわたしは思っていたけれど本当のことは解らない。

綺麗な思い出のままになって良かったのかもしれない。


大好きだった、ひと。


この会社に就職した直後は毎日優輝のことばかり考えていた。

北海道で就職が決まったと、暫くしてからメールがあった。

とても迷ったけど無視はしたくないと思い、頑張ってねと返信した。

それに返事はなかった。それで良かった。たぶん。

でも、ずっと心の中に引っ掛かっていた。

嫌いになって別れたわけじゃない。

それがわたしの足枷となって、恋愛から遠ざけていたように思う。

優輝の中ではとっくに終わったことかもしれないのに、わたしは本当にしつこい女だ。

だって、今でもあの笑顔が鮮明に思い出せるから。


「(…………会ったら、気持ちに整理がつく気がする)」


2年振りに来た、優輝からのメール。

メールが来たのは一昨日だけど律香にもまだ話していない。

佐藤さんには無論話すつもりはない。

夏休みでもお盆休みでもないのに、9月末に帰省するから会いたいとはどういう意味だろう。

以前のわたしならきっと、意味は解らなくても優輝からのメールというだけで嬉しくて堪らなかったはずなのに。

ぬいぐるみを抱くようにわたしを抱きしめる腕が、そうさせてくれない。

佐藤さん。佐藤さん。わたしは狡い女です。

メールが来たとき、優輝がもしわたしのことをまだ好きでいてくれたら、なんて一瞬でも考えてしまったから。

仮にそうだったとして、自分がどうしたいのかも解らないまま。

……恋愛って本当に面倒臭い。
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