佐藤さんは甘くないっ!
幸せを噛み締めるたびに泣きそうな気持になって、それを誤魔化すように笑い声を大きくした。
お願いだから今は泣かないでと自分に言い聞かせる。
泣いてしまったら、まだ仕舞っておかなければいけない気持ちまで一緒に流れ出てしまいそうだったから。
「佐藤さん可愛い!顔真っ赤ですよ、あはは!」
「笑ってんじゃねえよ……」
ゆらり、黒い影が目の前で揺れる。これは過去じゃない。今だ。
笑いすぎたことを後悔しても、時既に遅し。
わたしの両手を掴む力が急に強くなった。
だけど怖くなるどころか、胸がきゅんとするのはどうしてだろう。
わたしを捕まえておいてくれるその手が愛おしいのはどうしてだろう。
「ばか犬にお仕置き」
言葉の意味を問い返すよりも早く。
かぷり、と。
音が聞こえそうな勢いで佐藤さんがわたしの首筋に噛み付いた。
語弊なんかじゃなく、ほんとうに。
「ひゃ、あっ!」
驚きすぎて変な声が出てしまった。
噛まれたところがなんか痛い。わけがわからない。
まさかこんな目に遭うなんて思いもしなかった。
顔に熱が集まる。心臓が破裂しそうだ。
佐藤さんはにやりといつもの微笑を浮かべて自分の唇をべろりと舐めた。
いやらしく、てらてらと赤が光る。
このひとはどこまでも確信犯だと再確認する。
……狼が可愛いのは寝起きだけで、やっぱり狼は狼なんだ。
「ざまあみろ、ばーか」
子どもみたいな捨て台詞。
この、この、鬼畜シュガーめ。
やっぱりプライベートでも鬼畜だ。意地悪だ。ばか。ばか。
首筋がじんじんと痛む。熱をもって疼く。わけがわからない。
ていうか約束、佐藤さん、守ってくれるんじゃなかったの。
「お前が生意気なことするから。せっかく昨日は我慢してやったのに」
わたしの思考を読んだような発言にぼふっと熱が爆発する。
我慢。
その言葉が思い出させるのは、あまりにも生々しい行為で。
それこそ我慢ならなくなったわたしは佐藤さんの拘束から抜け出し、意味もなくキッチンに逃げ込んだのだった。
ついでに冷めたご飯を温め直そうと思い、コンロに鍋をかける。
……わたしがいなくなった寝室で、佐藤さんがどんな顔をしていたかなんて知らなかった。