佐藤さんは甘くないっ!

立ち上がって、三神くんの前までゆっくり歩いて行く。

言葉を選ぼうと思えば思うほど、思考が鈍くなってしまう。

……本当は、最初から決まってた。

三神くんに言いたいことはひとつしかないから。


「あのね、三神くん……聞いて欲しいの」


いつも背の高い彼を見下ろすのは不思議な気分だった。

三神くんは上目遣いで、ゆるりとわたしと視線を絡める。

その双眸は優しく揺れていて、呼吸が苦しくなった。

逸る心臓がどくどくと煩い。

瞳の奥が、じんわりと熱い。

震える唇を噛み締めて、想いを紡ぐ。



「―――今まで本当に、ありがとう」



三神くんは丸っこい瞳をこれでもかと見開いた。

逸らしたいけど、逸らしちゃいけない。

逃げたくなる感情を抑えつけて、真っ直ぐに三神くんを見つめた。


「優しくしてくれて、助けてくれて、……守ってくれて、ありがとう」


我慢ができなかった。

わたしに泣く権利なんてきっとないのに、涙が堪えられなくて。

瞬きをすればぽろぽろと丸い雫が頬を伝い落ちていく。

ありがとうだけでちゃんと伝わるかな。

でも、三神くんに一番言いたい言葉だから。

三神くんがいなかったらあの日、わたしはどこにも行けなかったから。

あなたが手を引いてくれたから、馨さんと向き合えたから。


「わたしを、好きになってくれて……あり、がとぉっ……」


それがわたしにできる、精一杯の“応え”だった。
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