佐藤さんは甘くないっ!

―――プルル、プル、


「……郁巳?」

「馨さん」


2コール以内に出るという約束をしっかり守ってしまった。

言い換えれば、それだけ電話を待っていたということが馨さんにばれてしまう。

数時間前に聞いたはずの声なのに、もう寂しさを感じている。

……会いたい、会いたいよ。


「どうした?」


馨さんの声が優しい。

まるで目の前にいて、頭を撫でながら話してくれているみたいだった。

それだけで心に巣食っていた不安がさらさらと消えていく。


「……今日、三神くんと話しました」


暫しの沈黙。

それ以上なんて言えば良いのか解らなくて、わたしも押し黙ってしまう。

電話の向こうの表情は読めない。

馨さんが今何を考えていて、どんな顔をしているのか、わたしには解らない。

消えたはずの不安は簡単に蘇って、またわたしの心を蝕んでいく。

でも、それを止めてくれたのもやっぱり馨さんの言葉だった。


「……よく頑張ったな」


たった一言。

それだけなのに、涙が溢れて止まらなかった。

彼女が他の男を振って泣いているなんて、彼氏から見たらどうなんだろう。

嫌な気持ちにさせているかもしれない。

普段は嫉妬深い馨さんなのに、こういうときはどこまでも理解があって困る。

困らないけど、……申し訳なくて、ありがたくて、苦しい。
< 253 / 291 >

この作品をシェア

pagetop