佐藤さんは甘くないっ!

その瞬間だけ、最上さんの仮面が剥がれたような気がした。

素直にびっくりしているというか、口を開けてぽかんとしていた。

美人の間抜け面は、それでもやっぱり綺麗だった。


「な、なに言ってんの…!ばかにしないでよ!馨に愛されてるあんたが何を羨むって言うのよ!!!」


最上さんは癇癪を起すように机の上にあった資料を引っ掴んで、怒り任せに叩き付けた。

床の上を何十枚もの薄い紙が滑り、ぶちまけられた白は最上さんの本音のように思えた。


「……わたしは馨さんの部下でいることを誇りに思っていました。仕事を頑張ることだけが、馨さんに認めてもらえる手段だと思って、この二年間ずっと頑張ってきました」


恋じゃないと思っていた。

馨さんの“よくやった”が聞きたくて、そのためだけに頑張ってきた。

どれだけ怒られても、馬鹿にされても、馨さんの背中だけを追いかけ続けてきた。

わたしの視界に映るのは、背中だけだったから。


「最上さんは馨さんのパートナーだったんですよね。今もアメリカ支社の責任者として日本に戻ってきて、馨さんと一緒にプロジェクトに携わっています。……それがどれだけすごいことなのか、解っていますか!?」


気付けばわたしも叫ぶように話していた。

わたしがずっとずっと欲しかったものをこのひとはもっているのに。

馨さんの隣を、同じ歩幅で歩く権利をもっているのに。

なのに、あんな汚い手を使って馨さんの隣を守ろうとするなんて。

そんなことをしなくても、ビジネスパートナーの枠は最上さんのために空いているのに。

仕事の上ではずっとずっとわたしに勝っているくせに。


「かっこ悪いことしないでください!わたしがずっと欲しかったものを最上さんはもっているのに!正々堂々と戦ってください!馨さんのことが好きなら好きってちゃんと言ってください!“顔しか好きじゃない”なんて逃げ道作った状態で、わたしに別れろなんて言う資格はありません!!」
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