佐藤さんは甘くないっ!
言い終わってすぐ、パンッと乾いた音がした。
自分の左頬がぶたれたのだと解ったときには、痛みがじんわりと伝わってきた。
修羅場でビンタ、なんてドラマの世界だと思ってた。
まさか自分がこんなことをされる日が来るなんて思いもしなかった。
叩かれた当事者の割に妙なくらい冷静な自分がいて、不思議な気持ちになる。
「あんたにっ……あんたなんかに何が解るのよ!?何もしないで好かれてるだけのくせに!!!」
最上さんは顔を真っ赤にしてわたしを怒鳴り付けた。
前のわたしだったらもう逃げ出していた。
今、わたしの中にあるのは馨さんへの想いだけ。
優輝への想いに縛られて踏み出せなかったわたしはもういない。
誰かに想われて、その想いを返せる関係というのは、言葉以上に強い力を持っている。
だからわたしは……嘘吐きな最上さんには負けられない。
「それで気が済むならいくらでも殴ってください。わたしは馨さんの俺様なところも、我儘なところも、本当はすごく優しいところも、甘やかしてくれるところも、寝起きが可愛いところも、全部好きです。正面から馨さんにぶつかることもできない最上さんに、今のわたしは負けたりしません!」
さっき叩かれた左頬がじんじんと痛み、唇を噛んで必死に耐えた。
本当は涙が出そうなくらい痛かった。
だけど、最上さんの前では、なにがなんでも泣きたくない。
痛みをこらえて最上さんの顔を真っ直ぐに見つめる。
逸らしたら、逃げたら、わたしの負けだ。
最上さんは口を開いては閉じを繰り返し、脱力したような顔でへたりと床に座り込んだ。