佐藤さんは甘くないっ!
「……私、あんたみたいな子が一番嫌いなのよ」
俯いたまま発せられる、感情のない声が耳に届く。
わたしは何も言えずにただ立ち尽くしていた。
「ビジネスパートナーとして……馨は私のことを気に入ってくれた。このままライフパートナーにもなりたいって……ずっと、ずっと思ってた。決死の覚悟で告白して、頑張って押しまくって、なんとか馨もOKしてくれて。全部夢みたいだと思った。幸せすぎて怖いくらい……満たされてた」
懐かしむように、思い出しながらゆっくりと言葉が紡がれる。
夢みたいに幸せだって……わたしも馨さんとお試し付き合いを始めたときに思ってた。
こんなに嬉しいことばっかりで大丈夫なのかなって不安になるくらい。
だから最上さんの気持ちが、痛いほどよく解った。
「でも、やっぱりだめだった。馨は私のことを、恋愛対象として好きだったわけじゃない。それでも彼女として側にいたくて、半年間もずるずる付き合ってたわ…。顔を好きだっただけって、自分の気持ちを誤魔化したかった。だから馨じゃなくても良いんだって、ずっとそう思おうとしてた。……離れたくてアメリカに行ったのに、全然忘れられなくて……こんなに好きだったんだなって、自分でもびっくりしたわ」
性格が悪そうで素直じゃない最上さんと分かり合える日なんて来るのか解らなかった。
だけど今、目の前で心に溜め込んでいた想いを消化している姿は……少し、好きになれそうだと思った。
「私も馨の全部が好き、って言いたいけど……」
俯いていた顔を持ち上げて、最上さんはわたしと視線を絡めた。
初めて見る柔らかい眼差しに思わず息を呑む。
びっくりするくらい綺麗で……それでいて儚かった。
「悔しいけど、私のことは甘やかしてくれなかったわね……」
最上さんが瞬きをすれば、ぽたぽたと床に染みができた。
わたしも同じ目線になるようしゃがみこんで、ポケットに入っていたハンカチを差し出す。
ハンカチを受け取った最上さんは、ありがとうなんて可愛げのあることは言わなかった。