佐藤さんは甘くないっ!
最上がアメリカ支社に行ってからあっという間に一年が経った。
その間も馨は誰も部下を置かず、ひとりで大きな企画をしては成功に導いていた。
実際に企画が動くときは各部署からメンバーを集めてチームを作るので、特に部下をもたなくても馨は困っていなかった。
寧ろ身軽そうで、そういうところがなんとなく気になった。
……早く、好きな相手でも作れば良いのに。
そうそう無理な話だと思いつつ、やっぱり馨には幸せになって欲しいと思う。
機械みたいな顔で仕事をしているところ、見たくないんだよね。
そして、無謀に思えた僕の願いは意外な形で成就することになる。
“いきなりでびっくりしたでしょ、ごめんね。馨……佐藤って悪いやつじゃないんだけど…ちょっとばかり横暴で傍若無人で自分勝手っていうか”
馨が担当に就くことが決まった直後、固まっている柴ちゃんに初めて声をかけた。
それはそれは酷い顔をしていて、正直笑いを堪えるのに必死だったなんて言ったら怒られちゃうかな。
“僕と馨は同期で入社してからずっと同じ部署にいるけどね、あいつが後輩の面倒を見るのは初めてだよ”
そうだ、初めてだったんだ。
馨があんなにうきうきしながら仕事をしているところなんて。
柴ちゃんを怒りながらも、楽しそうに仕事をしているところなんて。
間違えて買ってきたココアを、苦手な甘さに耐えながら飲んでいるところなんて。
自分がいると気が散るだろうと柴ちゃんを気遣って、定時になるとわざわざ違う部屋で仕事を始めて、柴ちゃんが終わる頃に部署に戻っていたところなんて。
次の日でも良いのにわざわざ柴ちゃんが仕上げた仕事は必ずその日に目を通して、柴ちゃんの努力に嬉しそうに口元を緩めているところなんて。
俺は良い部下をもったよ、なんて酒も入っていない席で僕に話すところなんて。
誰よりも仕事に厳しく、自分に厳しく、柴ちゃんにも厳しく、だけど愛情をもって接していたところなんて。
それを見ていた僕が、どれだけ嬉しかったかなんて―――馨は知らないんだろうけどね。